ジョアンの言葉(2)

GKコーチとして「変わらなければ。」
— GKコーチとして変わるきっかけとなった子どもの話しを改めて聞かせて下さい。

ジョアン氏:はい。 ある日のトレーニングが終わった時、指導していた子どもが近づいてきて「ジョアン、僕はもっと上手くなりたいんだけれど、どうすればいいんだろう?」と質問してきました。トレーニング直後でテンションが高かったこともあったとは思いますが、そこで私は「お前は何もわかっていない」とダメ出しをしました。 ある意味でその当時の私にとっては普通のやり取りでしたからその場では何も思いませんでした。
  
ですが帰宅して改めて振り返ると「何て酷いことを言ってしまったんだろう」と頭を抱えました。
仮にすごく気分の悪い時だったとしても、絶対にそんなことを子どもに言ってはいけません。
もし、逆の立場で自分が「もっと学びたい」と言った時に信頼している大人から「お前は何もわかっていない」と言われたらどんな感情になるのか……。

それがきっかけで私は3年間指導現場から離れました。そして、「悪いのは子どもではなく、GKのことを何も教えることができていない自分だ」ということに気付き、「変わらなければ」と強く思いました。

そこで自分の指導を冷静に振り返ることがなければ、ただボールを蹴って練習のための練習をするGKコーチのままだったかもしれません。
未だに多くのGKコーチは「自分の指導のお陰でGKが育つ」と考えていますが、実際にはGKコーチが子どもたちに感謝することが必要なのです。
「自分が育ててやった」といった傲慢な考えではなく、「その子どもと出会ったことでGKコーチとしての理論や知識を有効活用してもらうことができる」という奉仕の精神を持って指導にあたる必要があります。

ただ、大人というのは傲慢な生き物ですから、何の役にも立たない指導者ライセンスを取得しただけで、あたかも全てを知っているGKコーチのように振る舞ってしまいます。
実際、ライセンスを取得しただけでGKになるためにどういった準備をさせるべきかを体得できているGKコーチは存在しません。
だからこそ、私は今のライセンスシステムに反対の立場です。スペインでも7ヶ月もあれば一つのライセンスが取得できて、上に行けばUEFAのライセンスまで取れます。ただ、7ヶ月で何を習得することができるのでしょう?
例えば、医者になるのにわずか7ヶ月で何らかの資格が付与されたらどう思いますか?スペインでは医者になるために、まず大学の医学部での勉強が6年必要で、その後に数年間研修医としての実地研修が求められます。医者とGKコーチでは立場も職業も異なるとはいえ、GKコーチが3ヶ月、7ヶ月といった短期間でライセンスを取得することにどんな意味があるのでしょうか?

本当の意味で準備させることのできるGKコーチには数ヶ月、数年ではなれません。

繰り返しになりますが、正しく準備させることのできるGKコーチこそ育成年代で働くべきです。



    多くの人は「育成年代では満足な給料をもらえない」と言い、それは確かに事実でありハンディキャップですが、近い将来サッカー界でも何千万、何億と巨額の移籍金を投じて一人の選手を獲得するよりも、育成年代に高いレベルの指導者を揃えて子どもの頃からきっちりとした指導を受けさせることの方が効率的かつ経済的だと気づくでしょう。

メッシやイニエスタを育てたバルセロナは今それを実感しているはずです。また、そうしたクラブで育った選手というのは持って生まれたポテンシャルだけでプロ選手になるような選手とは違い、身に付けるべき技術、原理原則を備えていて、生え抜きとしてクラブに対する忠誠心も兼ね備えています

ジョアンの言葉が絶対とはいえませんが 指導する側のコンセプトというのも 選手に与える影響は大きいと思います。指導者が選手に感謝し、選手が指導者に感謝できる関係・・・リスペクトが成立するにはこの心が大切なんだと思います。上下の関係ではなく対等な関係形成の中から 学んでいける、学びあがる気持ちを養いたいものです。ライセンスに関しては ひとくくりでこうだ!とはいえませんが まだまだ、検討の余地はありそうですね。スペシャリストになるためには常に成長がないといけませんし・・・立ち止まったまま、学ぶことをやめてしまった者はスペシャリストから脱落してしまうかもしれません。